たほ日記

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入院したら読みたい本

高校生のとき、慢性的な腹痛に悩まされて検査入院をしたことがある。

検査入院といっても日帰りで何の事は無い内容だったが、私が初めていわゆる「病床」を実感した瞬間で思い出に残っている。

検査をする時間自体は数分で、残りはほとんどベッドでの待ち時間と聞かされていた私はとりあえず文庫本一冊だけ持って行った。

きっと気が滅入る時間だろうから…と思い、少しでも気分が明るく(?)なるように、星新一ショートショート集のひとつを選んだのだが、これが個人的に失敗であったと今になっても思うことがある。テンポが病床と全く合わない!

そのくらい、「病床」というのは読書に没入できる時間だったのだ。

 

大好きな作家のひとりである倉橋由美子が『偏愛文学館』のなかでトーマス・マンの『魔の山』を「稀に病気になって時間ができた時にベッドの中で読むことにしていた」と紹介していて、それに妙に憧れたことがある。私も病気の際ベッドの中で読むことにする本を選びたいと思った。

そんなのどんな本だっていいじゃないか、と思われるかもしれないが、病床の本は一味違う。確保できる時間の密度が違うからだ。

だからこそ、通勤電車の中で読むとウトウトしてしまうくらいの本がちょうどいい。

あと、人と「これ面白かったよね!」と話すには今更感があるような本だとなお良い。完全に読書を個人的なものに落とし込むためだ。

そこでまず候補に挙がるのが、カフカの『城』だ。それこそ高校生のときに一度読んだ読破したが、正直感動は薄かった。カフカに触れるにはまだ多感なJK過ぎたんだと思う。

その後、大学に入ってからDVDでミヒャエル・ハネケの『カフカの「城」』を観た。

 

カフカの「城」 [DVD]

カフカの「城」 [DVD]

 

 これがものすごく良かった。ちなみにこれを観たとき、私は風邪でかなり体調が悪かった。普通体調悪いときに映像なんかろくに観れないのに、これは観れた。つまり私の病から来る没入のリズムにマッチしているといえるんだろう。

 

そして、この前もう一冊見つけたから挙げる。カヴァンの『氷』だ。

 

氷 (ちくま文庫)

氷 (ちくま文庫)

 

 傾向としてはカフカに似てる、と言ったら一部の人に怒られるだろうか。

めっちゃくちゃざっくりとしたあらすじをいえば、ヨーロッパを思わせる国で諜報員のような仕事をしている「私」が目の前から去ってしまった「少女」を捜しつづけるという話で、これだけだとつまらなさそうなんだが、いや、実際つまらないのか・・・?

私はかなり没入してしまった。それこそ通勤電車のなかや健康な隙間時間で読んでいたのだが、まるで病気のときに読んでいるような気分だった。裏を返せば、読んでいると病気になりそうな小説だった。

 

「私」が「少女」を獲得するための過程は暴力炸裂、なんなら「少女」は何度も殺される(実際には死んでないのだが、イメージの世界で殺され続けるのだ。ここらへんがちょっとSFっぽい。)し、人のあたたかみなぞ一欠片もない。そもそも、「氷」は世界を覆い尽くそうとしていて、人類の終末はもうすぐそこ。なのに最後の最後で「愛」とか言い出して本当に「はぁ〜〜〜!?」と投げ出したくなる瞬間もある。

時系列もよくわからないし、現実なのか想像なのかその線引きもしてくれない。でも、ページをめくる手は止まらなかった。なんだろう、全く知らない言語の歌詞の曲を聴いてるんだけど、それがすごくしっくりくる曲だから意味はわからないのに何度もリピートしてしまうような。

 

ここまで書いてふと気づいたのは「お前それ通勤電車で読めてるなら、入院したら、とか関係なくない?」ということ。

本を読むペースやリズムってその時々で全然違うけど、今『氷』をここまでガツガツ読めたのは、今の私が入院中のメンタルに近いってことなのかな。でも、本当に入院したら『氷』をもう一度読みたい。それ以外の局面では、きっと読み返すことはないと思う。